今回、インド ニューデリーで開催されたKeystone Symposiaに参加しました。

Keystone Symposiaは生物・医学関連の様々なテーマを集めた学会であり、今回のテーマは「Malnutrition, Gut-Microbial interactions and Mucosal Immunity to Vaccines」と題したものです。現在、私は腸管粘膜の自然免疫機能の研究に従事していますが、過去には食品を介した消化管環境の修飾とそれによる生理機能の制御を主とした研究をしていたことから、今回の学会内容は今後の自分の研究の構想を踏まえての良い勉強になると植松先生にご推薦頂き、単身ながらも参加してきました。

「Malnutrition(栄養不良・栄養失調)」を中心とする問題は、学会テーマにある他の様々な要因が複合的に絡み合って成り立っています。すなわち、栄養失調は消化管の栄養吸収・防御機能の低下を誘発し、それはさらに感染症・下痢を引き起こし、それによる消化管の傷害・正常な腸内細菌叢の破綻が更なる栄養失調を引き起こすという悪循環、さらには消化管防御機能が低下した状態では感染予防のための経口ワクチンは十分な効果を発揮できない、というものです。今回の学会はそういった基本概念に関する総論に加え、病原体に対する消化管の防御機能、各機能における栄養素の役割、さらには効果的なワクチン接種の方法などについて、名立たる研究者たちが最新の研究成果を交えて講演し、栄養失調を中心とする世界的問題を解決する方法について議論するものでした。

中でも、免疫研究者の端くれとしてとりわけ興味深かったのは、ビタミンAの代謝産物であるレチノイン酸に関する講演です。ビタミンA補給が栄養失調による消化器障害を改善することは1980年代より明らかでしたが、その機構は不明でした。ところが、T細胞の消化管へのホーミング機能の獲得にレチノイン酸が必須であるという2004年の報告を皮切りに、消化管免疫機能におけるレチノイン酸の重要性が次々と明らかになってきています。Dr. Yasmine Belkaidは今では当たり前となった免疫寛容機能における役割に加えて、レチノイン酸はエフェクター機能の発現にも必須であるという最新の研究成果を講演してくれました。また、同研究室のSean Spencer氏は、機能未知である腸管好酸球へのレチノイン酸の関与を明らかにしてくれました。さらに衝撃を受けたのは、レチノイン酸がT細胞の消化管へのホーミング機能を付加するという特性に着目し、アジュバントとして用いるという試みでした。Dr. Swantje HammerschmidtやDr. David Haym Schwartzはそれぞれ非消化管部位である皮下へのワクチン接種時にレチノイン酸を直接打つ、あるいはビタミンAがより優位に機能する環境を作ることで、消化管の免疫機能を賦活化するという全く新しいアプローチを示し、自分にとってそれはまさに青天の霹靂でした。これらは栄養素が特定部位に対して発揮する機能・特性が理解され、その応用によって新しい治療手段が確立されていく流れの一例でありますが、今後同様のことが他の栄養素や病態でも応用されることを確信させられるものがありました。

また、今回の学会では、前述の先生方や若い研究者の方々と親交を深めることができました。自分の参加したポスターセッションや、円卓を囲っての食事の際に交わした会話は、今回の学会で得た知識と同様に、大きな財産となったと思います。最後ではありますが、今回初めてお会いしたにも拘わらず親身にして頂き、旅まで同行させて頂きました横浜理化学研究所の大野博司博士、福田真嗣博士にこの場を借りて厚くお礼を申し上げます。

文責・武村

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